「よもやま日記」//身の回り出来事や心に浮かんだ独り言、お気に入りのもの、日常の風景を切り取った写真などなど、思いつくままに書いてます。

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2012/12/16 (Sun) 25年ぶりの「日本橋」

泉鏡花の戯曲「日本橋」は私が玉三郎さんを好きになるきっかけになった芝居だ。花柳界を舞台にして1人の男をめぐる芸者の葛藤、そこへ絡む1人の男、計2組の男女の生きざまの中に魂の崇高な部分と弱さや煩悩を描き出した泉鏡花作品の中でも名高い名作。

当時は新派の記念公演か何かで歌舞伎界から片岡孝夫さんと坂東玉三郎さんを迎えての豪華なキャスティングだった。当時一世を風靡していた「孝玉コンビ」をテレビで目にして、その美しさに見入ってしまった。ビデオに最初の50分くらいが残っていてそれをDVDに落として折に触れ見返していたから台詞も覚えるくらいだった。その「日本橋」を玉三郎さんが25年ぶりに舞台にかけるというので、「これはぜひ見なくては!」と急きょチケットを確保、日生劇場へ足を運んできた。

nihonbashi 201212_01s
「日本橋」パンフレットの表紙

今回は玉三郎さんが演出にも参加し、歌舞伎用の劇場ではない西洋演劇中心の日生劇場に合わせ手が加えられていた。また、共演の俳優さんも若手の抜擢などがあって斬新さがある。
ただ、共演の俳優さんについては台詞回しが不自然な気がしてならなかったのがちょっと残念だった。台詞そのものが文学のような鏡花作品は、そこに自分の感情を乗せていくのが相当難しいのだろうと思う。現代の俳優がこういう作品を演じるのはかなりの修養が必要なのだろう。

玉三郎さんが昨今の歌舞伎界や演劇界に相当な危機感を持っていて芸の継承ということに力を入れているのは非常によく分かるし、意味あることに違いないが、彼の演技を受け止めるだけのものとなると、そう簡単なことではない。

ただ、みんな一生懸命に丁寧に演じようとしているのはひしひし伝わってきて好感が持てた。葛木晋三役の松田悟志さんやお千世役の新人の斉藤菜月さんなど、キャスティングが年齢的にも無理がなく等身大だったのもよかった。
玉三郎さん演じる稲葉屋お孝は粋で達引きの強さの裏に、純粋さと可愛さがあって非常に魅力的。特に第三幕第一場の「雪の一石橋」の場面の可愛さと言ったらなかった。葛木にわがまま言ってだだを捏ねる演技は、媚びたようなところがなくて、純でいじらしく可笑しみもあり、玉三郎さんならではだと思う。

そして何より泉鏡花の世界が十分に感じられ、言葉の美しさ、物語を貫く精神の崇高さが会場を包んでとても感動的だった。もうかれこれ20年前になるがNHK BSでの新春に玉三郎の特集があり、録画して何度も見ていたのだけど、インタビューで、「(泉鏡花の作品は)演じていて最後の方で魂が洗い流され、清々とした気持ちで幕切れになる。」と言われていた。これこそが玉三郎さんが泉鏡花作品を愛してやまない理由なのだろう。

自分の運命に悩み、煩悩に苦しみ、あるいは清らかな生き方を目指しながら、登場人物が見せる様々な人間模様が絡み合い重なり合って一つになっていく……。昔、テレビで見た時は、作品の崇高さをよく理解できず、特に芝居の後半は重たいと感じていたが、今回改めて生で芝居を見て、大きな感動を覚えた。少しは大人になったということかも知れない(笑)。

仏教的なテーマを追いながらも花柳界の艶やかさや笑いもあり、何より日本語が美しく、テンポのいい鏡花の台詞がまるで宝石のように心地いい。
「春で朧でご縁日……。(中略)これで出来なきゃ世界は暗だわ」など玉三郎さんの鮮やかな台詞回しと美しい姿が今も心に残っている。

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(左)稲葉屋 お孝役 坂東 玉三郎 (右)葛木 晋三役 松田 悟志(パンフレットより)


坂東玉三郎特別公演「日本橋」
2012年12月3日~26日(日生劇場)


演出   齋藤 雅文、坂東 玉三郎
配役   稲葉屋 お孝     坂東 玉三郎
      瀧の屋 清葉     高橋 恵子
      葛木 晋三       松田 悟志
      五十嵐 伝吾     永島 敏行
      雛妓 お千世     斎藤 菜月
      巡査 笠原 信八郎 藤堂 新二
      植木屋 甚平     江原 真二郎
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Author:つき
普段は虎を肴に大好きなお酒を楽しむオヤジ系。かつては米(米米CLUB)を追いかけ、今でもコンサートには顔を出す。さらに歌舞伎や時代劇を愛し、手ぬぐいをコレクションし、和菓子屋やスイーツにも目がない。茶道をちょっとだけかじり、日本文化のキーワードには反応してしまう。身体を動かすことは得意でないけど、タイガースと職場の陸上チームを応援してます。

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